このページでは、アセッサーとして人材アセスメントを行ってきた経験やインバスケット演習の対策講座・フィードバックサービスを通じた受講者の傾向から見えてきたポイントを念頭にインバスケットの攻略法、コツ、回答方法を紹介していきます。
インバスケットは、人材アセスメントで使用される演習の一つです。人材アセスメントは、実際の仕事に似た状況に皆さんの置くことで皆さんの行動を観察し、それを評価する手法です。
インバスケットは、管理職の書類作業を模した演習で、机の上に置かれた未決箱(インバスケット)に溜まった書類について、何かしらの行動をして既決箱(アウトバスケット)に入れていくという流れを前提に設計されています。
ですから、まず「指示書」で皆さんが置かれる状況が説明され、「案件」と呼ばれる未決書類が10〜30ほど渡されます。この案件について、判断や指示の内容を「処理用紙」に書き込むことになります。 より詳しい内容は、インバスケット演習とはで更に詳しく紹介していますので、興味がある方は参考にして下さい。
では実際のインバスケットはどのようなものでしょうか。簡単な例題を紹介しますので、これでイメージを持って下さい。
インバスケットの演習時間は、案件数によってそれぞれで、60分〜180分と幅がありますが、20案件・120分が一般的です。 これだけでも大変ですが、インバスケットと並行して面接演習(準備も含めて20分程度)が行われることが一般的ですので、更に大変になります。
インバスケットに取り組んだ後、6人程度のグループでグループワークを行うケースもあります。このグループワークでは、インバスケット演習を題材に指定された案件について議論し、対応策を発表させるということが一般的です。このグループワークでも皆さんの行動が評価されますので、気を抜かずに取り組んで下さい。
それでは、具体的にインバスケットを攻略するためのコツや書き方を考えていきましょう。
読むスピードを競う試験ではありませんので、所謂速読は必要ありませんが、ある一定の時間内で情報を”正確に”読み取る能力は必要となります。
インバスケットの文章量は非常に多く、参加者にかなりストレスを与えるように設計されていますので、普段から書類や本を読む習慣がなく、文章を読み取ることが苦手な人にとっては不利となることは間違いありません。
文章をスピーディかつ正確に読むためには、通勤時間やスキマ時間に新聞や本を読むことで活字に慣れることがまず必要になります。そして、読んだ内容について要旨を簡単に口に出すような訓練をすることで、より正確に文章を把握することができるようになります。
インバスケットは、営業、生産、研究開発など様々な職種の人が一同に会して行われるものですから、公平性の観点から、知識を問うようなことはありません。しかし、回答を書こうとする場合、あまりに浮世離れしてしまう回答では良い評価は得られません。
実際の業務でも、社会の動向に疎く、一般常識がないような上司に付いていこうと思う部下はいないでしょう。
経営や財務、労務について最低限のビジネス的な一般常識は持つようにして下さい。
インバスケットでは、処理にあたってマネジメント層として自分がどうしたいのかを決めることが必要です。
実際の業務に照らしてみると、マネジメント層の方針が不明瞭なグループでは、社員それぞれが好き勝手バラバラに動いてしまい、成果の獲得がままらないということは肌感覚で理解できると思います。
それとは逆に、高い成果を上げているグループではリーダーシップに優れたマネジメント層がが明確な方針を示しているということも至極明白なはずです。
通常業務でも、仕事が沢山降りかかって困ってしまったということは誰しも経験があるかと思います。このような時、何の作戦も立てずに与えられた順番に仕事をこなしていったらどうなるでしょうか。結果、社内の些末な仕事よりも顧客に関する仕事が後回しになったらどうなるでしょうか。
しかも、インバスケットでは部下に指示する立場に置かれる訳です。皆さんが適切に優先順位を付けられないと組織全体に影響が及ぶことになってしまいます。
それでは、どのように優先順位を付けたら良いでしょうか。
優先順位は緊急度と優先度の二軸で付けるのが一般的に良いとされていますが、しっかりとした方針さえあれば余計なテクニックを弄さなくても優先順位は付けられると思います。
なお、緊急度と優先度で優先順位を付ける場合、何をもって重要なのか、何をもって緊急なのかということについては、意外となおざりになっている人が多いようです。 また、そもそも何のために重要度と緊急度で優先順位を付けるのかという点についても、よく分かっていない人が多いようです。つまり、多くの人が優先順位付けを目的化しているとも言えます。
まずは、なぜ優先順位を付けるのか、そしてどのような事案が重要なのか緊急なのかをマネジメントとしての立場で整理し、自身に腹落ちさせておいて下さい。
日頃から反射的に物事に反応してしまう人は要注意です。何か問題が起きている時は、その原因となる事象が必ずあります。
インバスケットでは、ある案件に現象があり、別の案件に原因がある場合があります。推理小説に伏線が仕込まれていることとやや似ているかもしれません。
気が急くのはわかりますが、最初に必ず関連する案件があるという前提でしっかりと全ての案件に目を通し、案件の関連性を把握してから、回答を書くようにして下さい。このようにすると時間がかかるように見えますが、関連する案件をまとめて処理出来る分、時間の節約につながります。
インバスケットでは、時間の使い方が非常に重要になります。全ての案件に回答することが目的ではありませんが、演習の性格上全ての案件を処理するように努力することも必要となるのです。
時間内で全案件に回答することを努力目標とし、読み込みの時間、回答を書く時間を厳密に決め、状況設定の余白等に書き、忘れないようにするのが良いでしょう。
そして、決めたことを厳守することが重要です。途中で決めごとを曲げてしまうと、結局自分の心地よいゾーンで処理をするだけになってしまうからです。
マネジメント層が全く物事をジャッジできない場合、担当者は判断を待つことになり、手が空いてしまいます。決めるべきときには決めるという姿勢が重要となる訳です。勿論、保留する、何もしないという判断も時に必要でしょうが、一事が万事判断を回避するようではマネジメントは務まらないということです。
判断のプロセスは、情報収集と選択肢の列挙、判断軸の明確化、決断です。更に、人材の育成という観点から、自分で判断せず、部下に任せることもあります。
インバスケットで判断ができない人というのは、このプロセスが疎かになっている人です。これは、通常業務でも同じです。判断することが苦手、判断ミスをしてしまうという人は、多かれ少なかれこのプロセスに問題を抱えています。まずは、日常業務での自分自身の振る舞いを振り返って見て下さい。誰かに判断を丸投げしてしまっていることはありませんか?
スケジュールと組織図を常に手元に置いておき、回答の際には必ず参照しましょう。回答の際は、自分のスケジュールや組織のメンバーのスケジュールが矛盾しないようにしなくてはなりません。また、そもそもあなたの元に持ち込まれる様々な依頼がダブルブッキングの状態になっている可能性もあります。
端的に言うと「やっておいて!」だけでは人は動かないということです。人を動かすためには、具体的な指示が必要となり、5W3Hの視点がかかせません。
念のために、5W3Hを挙げておくと、When(いつ)、Where(どこで)、Who(誰が)、Why(なぜ)、What(何を)、How(どのように)、How many(どのくらい)、How much(いくら)です。このフレームはあまりにも一般的ですが、意外と多くの人に抜けが見られます。Whatは多いのですが、Whenが抜けていることもよくあります。また、特に多いのがHowの検討がなおざりな人です。方向性だけでは人は動けません。インバスケットを攻略するためには、自分が指示される立場に立って、行動しやすい具体的な指示を考えることが必要です。
インバスケットの状況設定には、一定のパターンがあります。すなわち、あなたは机で処理を行った後に離席し2週間程度音信不通状態になるという設定です。ですから、指示を行った後は、2週間程度の間、仕事を放ったらかしにしないといけなくなり、着任しないと仕事の成果を確認できなくなります。とすると、指示通りにしっかりと仕事がなされる、なされたかどうかが問題となってきます。それゆえ、指示を出した時点で、しっかりと進捗が確認できるようにしておくことが必要となります。
インバスケットをはじめとした人材アセスメントの演習全般に言えることですが、1回目よりも2回目の方がより取り組みやすくなります。やはり、”慣れ”という要素は一定程度回答に影響するのです。この理由は、人材アセスメントでは時間的なプレッシャーが重要な要素だからです。時間的なプレッシャーに慣れることで、頭が真っ白になるよう事態が避けられ、余裕を持って取り組むことができるのです。
自分は割とプレッシャーに強いので大丈夫だと思う人がいるかもしれませんが、本番のプレッシャーは模擬試験とは全く異なるものです。弊社でも何度も、インバスケット演習の最中に頭が真っ白になったという人を見ています。
従って、自宅でインバスケット演習に取り組む際は、制限時間を設定されているものよりも5分、10分程度短くし、練習の時から自分にプレッシャーをかけておくことが望ましいと言えます。このように、常にストレスの元に自分を置くことによって、本番で慌てないようにしましょう。
回答例付きの演習課題を買うことは、慣れるという意味で重要ですが、自分の回答の良し悪しを正確に把握することはできません。特に大きな弱点は、個別案件しかチェックすることができず、全体を通じての評価ができないということです。従って、できれば一度アセッサーのフィードバックを受けることが望ましいと言えます。訓練を受けたアセッサーしか、回答に評点を付けることはできません。
単純に演習課題を解くだけではインバスケットは攻略できません。なぜならば、他の人材アセスメントの演習同様に、自身が日常的に仕事をしている中で身に染み込んだ癖は、インバスケット演習を盲目的に解くだけでは治らないからです。
例えば、深く考えずにとにかく仕事をさばく、逆に何でもかんでも情報を集めようとする、人に判断を任せて自分は逃げてしまい決断しない、というような癖は一朝一夕には矯正できません。多くの人がすぐに成果を求めますが、長期的な観点で仕事を通じて弱点を克服することに務めることも必要なのです。
一度インバスケット演習を手にいれたら、次から次へと新しい問題を求めず、既存の演習課題を上手く使いまわすことも必要です。勿論、内容を覚えてしまうということもありますので、上記のように、制限時間をより短くして取り組んで、自分にプレッシャーを掛け続けるようにして下さい。
2回目の場合は、マイナス10分、3回目の場合はマイナス20分などすることが良い でしょう。また、既存の演習を深く分析してみることも必要です。中には、回答例やフィードバックを見て終わりの人もいますが、インバスケットの案件を振り返り、自分なりに分析することで得られることは少なくありません。
多くの方が誤解しがちなのですが、インバスケット演習では、模範解答に基づいて○×で点数を付ける訳ではありません。 ディメンションと呼ばれる評価軸で評価されるのです。
このディメンションですが、「〇〇力」のように能力という形で設計されています。例えば以下のような能力がインバスケット演習で評価されています。
・自分の判断軸を設定できる能力
・問題を分析し原因を特定する能力
・時間管理能力
・PDCAを管理する能力
・決断する能力
・情報を素早く集め、把握する能力
・経営資源を有効活用する能力
・人材を育成する能力
※ディメンションは研修会社によって異なりますので、ここではわかりやすい表現に変えて書いています。
アセッサー(評価者)の役割は皆さんの回答をこの能力に紐づけて評価することなのです。そして、評価の際は、個別の案件に対する回答をそれぞれ評価するのではなく、回答全体を通じて評価されます。
ですから、皆さんは模範解答を手にした際は、○×で自分の回答をチェックしてはいけません。「管理職としてどのように振る舞うべきか」という視点で、インバスケット演習への取組姿勢や振る舞いをチェックして下さい。
はじめてインバスケットに取り組んだ方の体験談をいただきましたので、紹介したいと思います。参考にしていただければと思います。